秋の夜長はドラムとともに。ドラムの名手が彩る天才たちの競宴!
Antonio Sanchez「Three Times Three」(2014)
Antonio Sanchez(1971〜)/ Three Times Three
【 プレイヤー】
Antonio Sanchez(ds)、Brad Mehldau(p)&Matt Brewer(b)(CD1 all)、
John Scofield(g) & ChristianMcBride(b)(CD2:1-3)、
Joe Lovano(ts)&John Patitucci(b)(CD2:4-6)
【曲 目】
CD1/:①Nar-this (Nardis) ②Constellations ③Big Dream
CD2:/①Fall ②Nooks And Crannies ③Leviathan ④Rooney And Vinski ⑤Firenze ⑥I Mean You
皆様、お久しぶりです。いつもご覧頂き、ありがとうございます。
今回ご紹介したいのは、Vol.11でも取り上げたアントニオ・サンチェスの新譜。まずはメンバーをご覧下さい。現代ジャズを語るには外せない、曲者ぞろい。トリオ編成で3曲ごとにメンバーが入れ替わります。曲調も豊富で、現代最高峰のドラミングを堪能すると同時に、個性派ベーシストの聴き比べもできる贅沢盤なのです。
ただし、瞬間的な快楽を楽しむ作品で、心の底から感動できる瞬間が少ないのが正直残念です。オリジナルのいい曲があるも、「ここでもっと歌ってくれたらなあ」という部分も。それでも、演奏水準は最高であり、全編に漂う空気がまさに現代を象徴しています。特に今の音楽を聴いている若い人たちには、絶対に楽しめる作品だと思います。
トップバッターは、現代ピアニストの中でも圧倒的な人気のブラッド・メルドーと、最近初リーダー作を出したマット・ブリュアー組。はっきり言って、このCD1を聴くだけでも価値があります。メルドーは、現代的な孤独を表現する内省的な世界観、右手と左手が同時に別々の旋律を奏でる圧倒的な技巧、クラブ的なグルーヴ感を備えた演奏が印象的なピアニストです。ピアノトリオによる演奏は、レギュラートリオ以外ほとんど録音がなく貴重なのです。スケールの大きいドラミングの中を、リーダー作以上に実に気持ちよさそうに疾走する演奏が爽快そのもの。冒頭のナーディスからして、実に自由で新鮮です。曲名をよく見ると“This”の文字が。まさに「今」を象徴する演奏といえます。続くドラムンベース調のサンチェス曲は、キレのあるドラミングとの丁々発止のやり取りも凄まじく、メルドー得意の同時メロディー弾きも冴え渡ります。ふっと音が引いた後の澄んだ空気、繊細なレスポンス、そして静かな音の波の中を暴れまくるドラムソロ。ため息が出るような素晴らしさです。続くバラードも、夜明け前のようなほの暗い空気の中、夢を語っていくような、せつなくもあたたかな演奏です。ブリュアーの秘めた情熱がかすかに覗かせるソロ、静かに淡々と語る独白のようなメルドーのソロも心にしみます。
続くのは、そのアウトしまくる演奏から、変態ギタリストとして有名なジョン・スコフィールド。さらにベースはクリスチャン・マクブライドも参加。極太の音色での黒人的な粘るウォーキングから、突き刺さるような早弾きまで凄まじい演奏が魅力です。この重量級の二人ですから、波乱の予感。ジョンスコのいつになく普通の音色での演奏で油断していると、やっぱりきた!極太ジャムバンドセッション!!最高のリズムセクションによるファンクビートに体全体を揺らされ、ジョンスコの濁った音色のギターと突進するマクブライドのソロ。さらに何とも自在に変化するリズムとテンポ。カッコよすぎる瞬間も沢山あるので、お聴き逃しのないように。最後の4ビート曲も、いつになく良く歌うギターと、気持ちよすぎる極上リズムを堪能できます。
すでにお腹がいっぱいの感じですが、まだまだ高カロリーの演奏は続きます。今度はサンチェスとは2回り程の先輩二人の登場です。これまたアクの強い曲者テナー、ジョーロバーノと、超絶テクニシャンのジョン・パティトゥッチ。深遠な空気から始まり、ドラムンベース調のリズムの上をうねりまくるテナー。伝説の怪獣「リヴァイアサン」の曲名は伊達ではありません。続くのはラテンのリズムを伴うあたたかく希望にあふれたテーマが素晴らしい、私の心の曲“Firenze”。しかし、肝心のロバーノが中途半端に雄叫びをあげ、台無しにしているのが残念。ここは丁寧にじっくり歌って欲しかったです。最後もただでさえ前衛的なモンクの曲を、変幻自在、やりたい放題に演奏しています。通常テンポでスイングしている部分がやけに気持ちよく、パティトゥッチの気持ちの入ったソロも聴きものです。
正直、聴く人によって賛否が分かれそうですが、とにかく一度は聽いて欲しい(特に若い人は是非!)、今年を代表する一枚と言えます。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!メルドー、ジョンスコ、ロバーノ