風香る春の息吹。新しい世界へ~ほとばしる魂のドラムを聴く
Antonio Sanchez 「New Life」(2013)
皆様、お久しぶりです。仕事のため、少しお休みしていました。
今後も活きのいい作品をご紹介していきますので、よろしくお願い致します。
まだまだ寒い日もありますが、最近日中は少しずつあたたかくなって来たように思います。そして、3月という節目の季節。新しい職場・学校や生活環境に移る方も多いでしょう。そんな季節にぴったりの爽快感のある作品をご紹介します。
アントニオ・サンチェスというメキシコ出身の若手ドラマーは、以前にも話題に上げてきました。現在最高峰と言っても過言でない、素晴らしいジャズマンです。手数が極端に多く複雑な拍子も軽々と演奏してのける技術力の高さもさることながら、燃え立つような熱い演奏が、共に演奏するメンバーを煽り立てます。その炎のようなプレイはバンド全体を包み込み、全体の格を数段上に突き上げていきます。
彼の凄さを最初に認めたのは、第二回でもご紹介したギタリスト、パット・メセニー。まだほとんど世の中に知られていなかった頃から、メンバーとして迎え入れました。サンチェスもその期待に応え、パワフルな演奏を基軸にバンドに新しい息吹を吹き込んでいるのが印象的です。最近のメセニーの新譜、”Kin”(下部写真真ん中)でも大活躍で、組曲のような長大な曲を躍動感溢れるプレイでドラマティックに盛り上げています。私の愛するクリスポッターも絶好調で、これは近年のメセニーの作品の中でも最高傑作といえるでしょう。新しい響きを求める方には是非とも聴いていただきたい作品です。
そんなサンチェスがリーダーとしての手腕を最大限発揮し全曲作曲も手がけた、現在の彼の充実ぶりを示したのが本作品です。驚いたのは一癖も二癖もあるメンバー揃いであること。
アンダーグラウンドの空気とメカニカルな演奏が妖しい魅力を放つデビット・ビニー。突進力のある演奏と斬新なアイデア溢れる作品を世に放つドニー・マスカリン。この強烈な2サックスに加え、前衛的な初リーダー作で度肝を抜かれたジョン・エスクリートのピアノ、骨太プレイが魅力のブリュアーのベースという、現代若手曲者オールスターズの布陣。
さらに驚いたのは、そんなメンバー達を見事にとまとめ上げたサンチェスの手腕です。自らの作曲の世界に完全に引き寄せ、独特のハーモニーや分厚いユニゾンを堂々と響かせています。精神的な深みと躍動を感じさせる曲や美しいバラード、ファンクやフュージョンの風味を効かせた鮮烈な曲など魅力的な曲が並びます。
お勧めは、婚約者のボーカリストも参加した三曲目のタイトル曲。清らかなピアノに導かれ、爽やかな声が優しく包みつつ、徐々に豊かに大きく広がっていくドラマティックな展開が魅力です。往年のジャズファンの方は、初期リターン・トゥー・フォーエバーを思い出すかもしれません。また、時にはメンバーを解き放ち、自由に演奏させて個性を存分に発揮させています。5曲目では、そんな彼らのアクの強いソロもたっぷり楽しめます。
サンチェスのドラマーとしての最高傑作は“Live In New York”(2008)。(下部写真の真ん中)2サックス、ベースと共に暴れ狂うプレイが圧巻で言葉も出ません。二枚組のライブ盤ですが、一気に聴けてしまう麻薬的な魅力を持つ作品です。
最後の“TAP”(写真下部右)はジャズではないですが、ロック調のビートの超重量級ドラムやノイジーなギターがやけにかっこいいので、お好きな方はどうぞ(初心者にはお薦めしません)
いよいよ新しい季節の到来です。張り切っていきましょう!!
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!アントニオ・サンチェス