リズムの乱舞!豪快なピアノトリオで新年の聴き初め!
中村恭士「A Lifetime Treasure」(2016)
中村恭士/ A Lifetime Treasure(2016)
【 プレイヤー】
中村恭士(b)、Lawrence Fields(p)、Clarence Penn(ds)
【曲 目】
①On My Way ②Stablemates ③A Lifetime Treasure ④But Beautiful
⑤Viva o Rio de Janeiro ⑥Stella by Starlight ⑦When Mr.Gut Says
⑧Naima ⑨Burden Hand (Bird in the Hand) ⑩Language of Flowers
⑪Yasugaloo ⑫The Nearness of You
あけまして、おめでとうございます。
このコラムは今年も続けていこうと思っていますので、よろしくお願い致します。
さて、新年一発目は、豪快なピアノトリオをご紹介します。NYで活躍する日本人ベーシスト、中村恭士(やすし)の初リーダー作です。
中村恭士は父の仕事の都合でシアトルにて育つ。高校での熱心な音楽の授業でジャズを好きになり、15歳からベースを始めました。彼のアイドルはレイ・ブラウンで、初めて聴いた時からすっかり夢中になってしまったそう。中村のベースは、鋼のように強靭で太く粘りのある音、安定したテクニックから繰り出されるセンスのあるメロディー、そしてなによりも、バンド全体を下からしっかり支え、鼓舞し、スイングしまくる絶妙なウォーキングが魅力です。これは、まさに彼の敬愛するレイ・ブラウンの路線に近いものを感じます。
ピアノのローレンス・フィールズはこのコラムのVol.7 ジャリール・ショウの作品にも参加していた新鋭黒人ピアニスト。知的で澄んだ音色、浮遊感のある独特の和音の使い方、繊細さもあるのにいざという時の爆発力が魅力です。さらに、日本では小曽根真トリオのドラマーとしても有名なクラレンス・ペンが参加。極めてオーソドックスなプレイながら、最近はよりテクニカルになり、進化し続けています。
冒頭、ピアノの音色に導かれ、解き放たれたようなリズムの嵐に、土肝を抜かれました。ペンの手数の多いドラムが縦横無尽に暴れまくり、中村も野太いベースで襲い掛かるように突進。空間がリズムに埋め尽くされ、目の前に迫ってきます。全く遠慮なしで、やりたい放題に突っ走る熱気に満ちた演奏なのです。音質もザラっとしていて、ジャズが熱かったあの時代の空気を感じます。ピアノのフィールズも一見上品そうですが、圧倒的リズムに一歩も引けを取らずに、楽しそうに跳ね回ります。
なんといっても凄いのは、一見全員が好き勝手に演奏しているように見えて、尋常ではない一体感を感じるところです。無駄な音も一音もありません。よく聴くと、重層的で凝ったアレンジが施された曲もあり、実は綿密な計算の上に成り立っているようです。
また、この作品の魅力は曲にもあります。ちょうど半分が中村のオリジナルです。彼の曲は、ジャズの古き良き時代の響きを大事にしつつ、現代的感覚も織り込まれたもの。メロディーも親しみやすく、それでいて鮮烈です。一方、残り半分のよく知られたジャズ名曲にも独特の味付けがあり、アルバム全体の統一感を生み出しています。
では、聴きどころを簡単に紹介しましょう。1~3曲目の実に楽しくスイングするタイトル曲までの流れは、安定した素晴らしさ。6曲目「ステラ~」も複雑な変拍子によって生まれ変わっており、特に中盤以降、ベースとドラムがぶつかり合い盛り上がるさまは圧巻です。8曲目のコルトレーン曲も凝ったアレンジが印象的。いきなりベースがうなりをあげて執拗に同じリズムを繰り返す中を、ピアノが漂うように現れ次第にリズムの分厚い壁に突進し、熱気が増していきます。
かと思えば、10曲目のオリジナル曲では繊細で華やかなピアノの独奏から始まり、その歌心に満ちたピアノがたっぷり堪能できます。ペンのブラッシも名人芸。ロマンティックでいながら過度に感傷的でない曲調がじわじわとしみて来ます。最後はベースのソロで厳かに。語りかけるように歌うベースに、聴き惚れてしまいます。
最初から最後まで一切捨て曲がなく、初心者から耳の肥えた玄人まで、万人を満足させてくれる極上のジャズと言えます。
今年はどんな素晴らしい作品に出会えるのでしょうか。そう思うとわくわくしてきます。それではまた、お会いしましょう。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!中村恭士&クラレンス・ペン