若葉薫る初夏にお似合い、清々しい正統派ハードバップ!
Patrick Cornelius「Infinite Blue」(2013)
Patrick Cornelius/ Infinite Blue(2013)
【 プレイヤー】
Patrick Cornelius (as)、Frank Kimbrough (p)、Michael Janisch (b)、
Jeff Ballard (ds)、Nick Vayenas (tb on M-1,4,5,6,9)、
Michael Rodriguez (tp on M-2,4,5)、John Chin (p on M-9)
【曲 目】
①Regent Street ⓶Infinite Blue ③Intro To Waiting ④Waiting ⑤Puzzler
⑥Unfinished Business ⑦In The Quiet Moments ⑧My Green Tara
⑨Projection
ついこの前、桜が散って 、かと思えば連日もう夏日の暑さが続く今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。またしても少し間が空いてしまいましたが、お付き合いください。
今回は極めて正統派のハードバップをご紹介します。パトリック・コーネリアスはニューヨークを中心に活躍するアルトサックス奏者。5歳からクラシックのピアノを弾いていましたが、途中でジャズサックスに転向。2005年にアメリカ作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)主催のYoung Composer Awardsで優勝し、2011年にはダウンビート誌で「将来を嘱望される若きタレント」に選ばれています。
彼のジャズは一聴して、極めてオーソドックス。4ビートを中心にしつつも、現代的な薫りを感じさせるオリジナル曲が中心でとても聴きやすいです。アレンジもさりげなく凝っており、非常に広がりを感じさせ、さっそうとした響きが印象的。コンボでありながら、テーマではビッグバンド的な広がりを感じさせます。演奏も、なんの衒いもない直球ストレートのフレージングと、のびやかで艶のある音色が印象的。癖がなさすぎるところが特徴と言ってもいいくらいです。
コーネリアスの4作品目となる本作“Infinite Blue”も共演者が豪華です。ピアノにみずみずしい音色と軽やかなバッキングが魅力のフランク・キンブロー。ドラムはメルドー・トリオのキーマンであるジェフ・バラッドが、力強いリズムでバックを固めます。さらにゲストとして、トランぺッター、マイケル・ロドリゲスも参加。のびやかで輝かしい音色、時に突進する勇ましい演奏が光っています。若手トロンボーンのニック・ベイナスも、ふくよかな音色と安定したテクニックでフロントを飾っています。
アルバムの印象は、随所にいかにもハードバップといった熱い曲がある一方で、アルトをじっくり聴かせるバラードやミドルテンポの曲も多く、全体としては洗練された穏やかな印象です。
オープニングのフロント3菅による華やかな演奏は、まさにこのアルバムを象徴するもの。さわやかなテーマに続いて、各奏者がまるであいさつをするように順にソロを奏でます。皆広い音域を使っていないにもかかわらず、聴き応えのある演奏に耳が惹きつけられます。
警戒音のような凝ったアレンジのテーマが印象的な5曲目は、うねり躍動する最もハードな演奏。先陣をきるロドリゲスの切れ味鋭く突進するソロがまず見事。コーネリアスと繰り広げる丁々発止のぶつかり合いも聴きものです。
一方、7曲目のようなスローテンポのバラードも素晴らしい。キンブローのしっとりしたピアノとムードを演出するバラッドのドラム。静かに語りかけるように歌い上げるコーネリアスのアルトが胸に響きます。過度に甘すぎず、深みのある藍色を思わせる味わい深い演奏。万人にお勧めできる質の高いアルバムです。
さて、下段の「もっと聴いてみよう」もご紹介しましょう。
まず、マイケル・ロドリゲスがピアニストである弟のロバートと組んだロドリゲス・ブラザーズのこれも剛速球一本の作品(写真左)。
続いてジェフ・バラッドの初リーダー作。熱血アルトのミゲル・セノーン、民族音楽の世界に誘うギターのライオネル・ルエケとの変則トリオによる、自然体の演奏が楽しい作品(写真中央)
最後は昨年末にリリースされて局地的に人気を博した、アルト奏者ジム・スナイデロによる超優良ハードバップ作品。メンバーがとにかく豪華で、熱気に満ちた演奏の連続に興奮すること間違いなし。
これから暑くなってきますので、お体にはお気を付けください。
では、またお会いしましょう。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!サイドマン作品&良質ハードバップ