男気ジャズテナーを聴いて、初夏を楽しもう!
Illinois Jacquet 「The Blues ; That’s Me!」(1969)
最近引越しをして、やっと自宅でアナログレコードが聴けるようになりました。今回はその今まで集めたレコードの中から、イリノイ・ジャケーというテナー奏者をご紹介します。ジャズ史上には、もっと凄い奏者は沢山いるのですが、私は彼の生涯全く変わらなかったそのスタイルに惚れています。それは、太く力強い中低音で力の限り吹き上げる、男臭く土臭い演奏です。あまりにも直情的な演奏のため、野暮ったく、いかにも洗練されていない感じもあります。しかし、そこがそのまま彼の魅力なのです。飾らず、なりふり構わず突進するような演奏に揺さぶられるのです。1942年にライオネル・ハンプトン楽団でデビューして以来、90年に亡くなるまで、ほぼそのスタイルを変えることなく男気溢れる演奏を続けました。
さて、まずは最初の絶頂期を迎える40年代後半の作品です。今回聴きかえして、しみじみといいなあと思ったのがアラジンというレーベルに吹き込まれた“Illinois Jacquet And His Tenor Sax”(下のアルバム左) 。二つのビッグバンドによるセッションが入っています。音はあまりよくないですが、逆にそれが元々ダンスミュージックだった古き良きスイングジャズの雰囲気を盛り上げます。ジャケーは時に豪快に力強くブロウし、雄叫びのように高音を突き刺す。かと思えばバラードでは柔らかく繊細な歌心を聴かせます。この男の色気をはらんだ朗々とした演奏もまた魅力なのです。チャールズ・トンプソンのセンスのいい力強いバッキングや、活きのいいバックバンドの合いの手も最高です。
次に60年代中頃には、シカゴのアーゴレーベルに、そのレーベルカラーそのものの、土臭くあたたかな名作“Desert Winds”(1964年・下のアルバム真ん中) があります。
このタイトル曲が、哀愁の漂う名曲で、私は好きすぎて一時期こればかり聴いていました。打楽器が馬の歩みを思わせ、ギターが流れる時を刻み、まるで旅をしているような雰囲気がいいのです。瞬く満点の星空の下ゆったりと楽しげに歩いていくような「スターアイズ」もいいです。
60年代中頃はプレステッジレーベルに、今までのスイングとは異なる多彩なスタイルでの名作の数々を残しています。面白いのは、スタイルがどうなっても彼のテナーの演奏は全く変わらないところです。例えば、よりモダンなスタイルであるハードバップのバリー・ハリスらによる演奏の“Bottoms Up”(1968年・下のアルバム右) 。ところがこれが、最高傑作の一つといっていいほど、スリリングで一体感に満ちた演奏なのです。両者がお互いに敬意を払い、心を合わせたことで生まれた名演といえます。
さらにプレステッジ最終作となった“The Blues; That’s Me!”(1969年/タイトル) も大傑作。ブルース系ギターのタイニー・クライムスと、なんとモダンのウィントン・ケリーのピアノとの異色の組み合わせ。この1曲目を絶対に聴いてください!こんなに深く味わいのあるブルースを聴いたことがありますか?ゆっくりと語りかけるように、おおらかで優しさも感じるプレイに思わず涙が出そうになります。他にも軽快にスイングする曲や、なんとバスーンによるソロ(ブルージーで意外といいです)など盛り沢山。
これからどんどん暑くなってきますが、ジャケーの熱い演奏を聴いて暑さも吹き飛ばしていきましょう!
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!イリノイ・ジャケー