BUNCAで、あったかな部屋で、ぬくぬくとジャズに浸る一枚
Tom Harrell「Colors of a Dream」(2013)
Tom Harrell (1946〜)/ Colors of a Dream
【プレイヤー】
Tom Harrell (tp,flh)、Jaleel Shaw (as except M-10)、
Wayne Escoffery (ts except M-10)、Esperanza Spalding (b except M-2)、
voice except M-6,9,10、Ugonna Okegwo (b)、Johnathan Blake (ds M-10)
【曲 目】
①Tango ②Velejar (Sail Away) ③Phantasy in Latin ④State ⑤Seventy
⑥Blues 2013 ⑦Nite Life ⑧Even If ⑨Walkway ⑩Family ⑪Goin' Out
少し遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
最近冷え込みますね。こんな日は暖かい部屋で、ぬくぬくとジャズ三昧といきたいところです。
新年最初にご紹介するのは、私の大好きなトム・ハレルという1946年生まれのベテラン・トランペッター。デビューした頃からトレードマークの豊かな歌心と果敢に攻める豪快なプレイで人気を博す。基本的にはジャズの王道のスタイルで、独自の世界観とジャズの醍醐味をたっぷり含んだ演奏は、聴く者を魅了します。
そして何よりも凄いのは、常に時代の空気を取り込み、新しい表現に挑戦し続けていること。ここ数年は気鋭の若手を結集して、複雑なリズムと豪快にドライブする推進力で「現代ジャズ最高峰」とも呼ばれるクインテットを作り上げ、精力的に活動しています。
彼のステージでの佇まいは独特です。直立不動で舞台に立ち、テーマをちょっと吹いた後は、そのままの姿勢で目をつぶって瞑想しているかのような状態に。そして、自分のソロになると、飄々とフレーズを吹いたかと思えば、朗々と歌い上げ、そして天へ駆け上がるように突進していくのです!これはもう、圧巻です。孤高の佇まいを感じさせながら、出てくる音色やフレーズは何とも言えずあたたかく、ユーモラスですらあります。いつも青年のようにみずみずしく、年を追うごとにその音色は滋味深さを増しているのです。
生で聴いた人にしか分からない超越した世界です。その本当の凄さは残念ながら録音に入り切らないのです。CDだけを聴いていてももちろん素晴らしいのですが、ライブはいいとか悪いとかそんなことを言っている場合ではありません。ただただ、呆然と息を飲んで聴き入るしかありません。是非ライブで聴くことをお勧めします。
さて、今回の作品に、長年のファンはびっくりしたに違いありません。鉄壁のクインテットからその要となっていたピアニストが外れてピアノレスになると共に、アルトが加わり3管になり、さらに2ベース(!)になったのです。しかも、新規参入したのは、今をときめく若手女性ベーシスト、エスペランサ・スポルティング。彼女は、男性顔負けの巧みなベースプレイもさることながら、ラテンの空気をまとった艶やかなボーカルがトレードマークなのです。といってもほとんどスキャットで歌う器楽的な扱いで、三管のアンサンブルに爽やかな清涼感を加えています。
彼女の起用もあってか、明るく朗らかな演奏が多く、聴いていて心が浮き立ちます。色彩感豊かでバッキングもビッグバンドのように華やか。2ベースがガッチリと支えつつ、時に互いに響き合って深い音色を聴かせます。ドラムはいつもより開放的で、メンバーを燃え立たせます。各人のソロも張り切っており、そんな中でハレル御大がマイペースに自分の世界を構築しているのも微笑ましいです。
お勧めの曲は以下。歪んだおとぎ噺のような1曲目。エスペランサのトリッキーなスキャットに全員が応答するのが面白い7曲目。そして、なんとトムのトランペットとベース2本という編成の9曲目もユニーク。ベースがまるで大きなギターのように扱われます。何をやっているかが分かりにくいので、出来たら大音量で聞きたいところ。最後は、疾走感のある開放的な曲で幕を閉じます。このポジティブで堂々たる演奏が、寒さも吹き飛ばしてくれそうです。
今年も活きのいいジャズをたくさん聴いていきましょう!
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!トム・ハレル & エスペランサ