【まちれぽ新座】/Monthly JAZZ Selection Vol.4 ジョアン・ジルベルト Joan Gilbert


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ボサノヴァで夏を楽しもう!奇跡づくしの来日アルバム
Joan Gilbert「Live in Tokyo」(2004)

Joan Gilbert(1931~) / Live in Tokyo
【プレイヤー】
Joan Gilbert(g, vocal)
【曲 目】
①Acontece Que Eu Sou Baiano ②Meditacao ③Doralice ④Corcovado ⑤Este Seu Olhar  ⑥Isto Aqui o Que E?
⑦Wave ⑧Pra Que Discutir Com Madame? ⑨Ligia ⑩Louco ⑪Bolinha De Papel ⑫Rosa Morena ⑬Adeus America ⑭Preconceito ⑮Aos Pes Da Cruz

 毎日蒸しますね。
 暑くなるとボサノヴァの涼しげな響きが恋しくなります。
 突然ですが、ボサノヴァは発祥当時、前衛音楽だったということをご存知ですか?直訳すると「新しい感覚」。1950年代に、ブラジルのサンバとアメリカのジャズが融合してボサノヴァが生まれました。
 その前衛性は多くの楽曲に見受けられます。例えば、一つの音(ワンノート)をつなげることで曲にしてしまった「ワン・ノート・サンバ」。例えば、「音痴」の名の通り、本当に音痴が歌っているかのように音が外れたりリズムがもたついたりする「ディサフィナード」などなど。当時の若者たちの自由でみずみずしい感性に溢れています。この二曲の作曲者は「ボサノヴァの神様」アントニオ・カルロス・ジョビン。そして、それらの名曲を歌わせたら右に出るものはいないと言われるのが、現在80歳を超えてなお演奏活動を続けるジョアン・ジルベルト。得意なスタイルは、ギター一本での弾き語り。あのボサノヴァを特徴づける軽快なリズム「ボッサ・ビート」の発明者とも言われています。また気難しい性格で、ドタキャン常習犯。数々の奇行でも有名です。

 ジョアンは2003年、奇跡とも言われた来日を果たしました。彼の音楽を心から愛する日本の素晴らしい聴衆たちに感動したジョアンは、演奏の合間に突然ギターを抱えたまま数十分の間動かなくなる、後に「フリーズ」と呼ばれる現象(本人曰く「心の中で聴衆の一人ひとりに感謝の気持ちを伝えていた」らしい)を起こしたり、何時間もぶっ続けで歌い通し聴衆を感動の渦に巻き込んだりと、いくつもの伝説を作りました。

 残念ながら初公演には行けなかったのですが、なんと、翌年もまた日本にやってきたのです!今度こそはと勇んで聴きに行きました。
 それはもう、なんといっていいのか、奇跡としか言い様のないライブでした。独特のゆらぎのある優しく語りかけるような歌い口。しかし、それは一度として同じようには歌われず、変幻自在に移り変わっていきます。自由にフレーズが伸び縮みする神業としか思えない不思議なギター奏法が、さらにその歌を際立たせます。時に鮮烈な響きを生み出し、時に美しく調和して、どこまでも無限に広がっていくジョアンの世界。

 この上なく澄んだ青空や、雲海の上を漂うような幻想的な風景など、いくつもイメージが頭の中をめぐり、感動のため背中には何度も寒気が走りました。あまりの演奏の凄さに圧倒されてしまい、拍手すら出来ないほど。9月とはいえ30度近い気温でしたが、本人の希望により空調は切られ、非常灯も消されステージ以外は漆黒の闇。その暑さの中で息を殺して必死で聴く最中、突然、体の中を風が吹き抜けたように感じました。そう、それはまさにブラジルの風だったのです!

 本当に、今でも夢だったのではないかと思うほど感動的なライブでした。寡作で神経質なジョアンは滅多にライブ録音を出さないのですが、彼自身もその演奏の出来栄えに相当感動したのでしょう。初来日時に自身の記録用に録っていた音源が、公認され発売されました。それが今回お薦めする「ライブ・イン・東京」です。残念ながら、生の演奏の凄さのごく一部しか録音からは感じられませんが、それでもその特別な空気は伝わってきます。可憐な歌とまるで迷路のように入り組んだギターのフレーズに翻弄される「ドラリサ」、「リジア」での慈しみに満ちた歌。どれもが美しく何度聴いても飽きず、私にとっては宝物のような作品です。

 しかし、残念なことにライブ後半が諸事情によりカットされているため、選曲にはやや不満が残ります。そこで、初めてジョアンを聴く方には、比較的最近の録音から「声とギター」(「もっと聴きたい!」写真一番左)をお勧めします。出世曲「想い溢れて(Chega De Saudade)」、先にご紹介した「ディサフィナード」の極上の演奏が堪能できます。全10曲であっという間に終わりますが、密度は濃く満足度は高いです。ジャケもお洒落。
 また、ボサノヴァ誕生前の曲を取り上げた名作「ジョアン」(写真真ん中)は、選曲がマニアックですが、歌うのが楽しくて堪らない!という彼の心の声が聞こえてきそうな、溌剌とした演奏が魅力です。オーケストラアレンジも一風変わっていて味わいがあります。

 今年の夏はボサノヴァにどっぷり浸ってみるのはいかがでしょうか?きっと幸せな気分になれるに違いありません。

(文:S. Nakamori)

もっと聴いてみよう!ジョアン・ジルベルト

声とギター(JOAO VOZ E VIOLAO)
(2000)

選曲、演奏、歌、すべてが完璧!

JOAO
(1991)

じんわりと心に染みる味わい深い作品。

Live At The Montreux Jazz Festeival
(1985)

当時50代の熱気に満ちたライブ2枚組!

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