秋の夜長に心ふるえる。静と動が交錯する奇跡のライブ!
Marcin Wasilewski「Live」(2018)
皆様、お久しぶりです。
やっと書きたいものが降りて来ました。そう、音楽に憑依されたような感覚なのです。それくらい、心にしみたアルバムです。あたりが静まり返った真夜中に聴いて、気がつくと澄んだ夜の空気と自分の体が一体になった心地になりました。
この作品は、以前このコーナーで『Spark Of Life』を紹介したシンプル・アコースティック・トリオ(※本当はピアニスト名義ですが、私はこの昔のグループ名が好きです)の最新ライブ盤です。ベルギーのアントワープでのジャズフェス音源ですが、なんと本人達は録音していたことを知らなかったそうです。ライブ用のセッティングではないため、たまにオフマイク気味になったりもしますが、それが逆にライブ独特の空気を丸ごと伝えています。曲目もほぼSpark Of Lifeのものですが、ライブを経て熟成された味わいが感じられ、メロディーに聴き覚えはあっても、全く別物に感じられます。
特に印象に残ったのは最後の2曲。若くして亡くなってしまったピアニストに捧げた5曲目は、ピアノのぽつぽつと語りかけるような演奏で始まり、ふっとベースとドラムが入ってきた時の、包まれるような優しさ、あたたかさに背中を感動が走り抜ける。まるで、悲しみに沈むピアノを、一人じゃないよ、ここにいるよ。だいじょうぶだよ。となぐさめているかのよう。次々に沸き上がる懐かしさと微笑みに満ちた豊かなメロディーの響き。いつまでも包まれていたくなる。
そして、突如突進する雄渾なベースのリズムとパーカッション。曲はハービー・ハンコックの「アクチュアル・プルーフ」。ジャズ初心者の頃、彼にはお世話になり、私には本人による最高の演奏と思える録音があり、ライブでもそれを聴いています。
しかし、その印象を彼らは覆します。限りないハンコックへのリスペクトを感じさせつつも、ほとばしるような鮮烈さを感じます。三者が対等にぶつかり合い、全く新しい曲の魅力を引き出しているのです。ファンキーさよりも、奥深さを感じます。光と闇が交差し、閃光が走り、大きく躍動し始める瞬間は鳥肌ものです。ジャンルを問わず音楽が好きな方には、ぜひ聞いてほしい素晴らしい作品です。
さて、今年は「静寂の次に美しい」ECMのピアノ作品が豊作なので、他にもいくつかご紹介します。
まずは、スウェーデンのピアニスト、ボボ・ステンソンの最新トリオ作品(画像左)。いつも通りシルビオ・ロドリゲスの柔らかく語りかけるバラードから始まり、クラシックのアレンジも含むいつもの選曲ですが、全てが高度に成熟して、彼の最高傑作だと断言できます!これもたくさんの人に聴いてもらいたい。
続いてノルウェーのピアニスト、トード・グスタフソンによる10年ぶりくらいのピアノトリオ作品(画像中央)。一音一音を愛しむように響かせるピアノに、むせぶようなベースのソロで、胸がいっぱい。さりげないエレクトロニクスも演奏に奥行きを与えています。
最後は、同じくノルウェーのサックス奏者による『Helsinki Songs』(画像右)。まるで民族楽器のようで、浮遊しつつ、むせび泣くサックスもユニークですが、今注目を浴びつつある若手ピアニストのみずみずしく澄んだ音色にも注目していただきたい。正直、イージーリスニングぎりぎりですが、温かな響きにゆったりした心地になれます。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!ECMの最新ピアノ作品