美しく響き渡るメロディー、もう少しだけ冬の夜に浸りたい
Marcin Wasliewski Trio (Simple Acoustic Trio)「Spark Of Life」(2014)
Marcin Wasliewski Trio/ Spark Of Life(2014)
【 プレイヤー】
Marcin Wasilewski(p)、Slawomir Kurkiewicz(double bass)、Michal Miskiewicz(ds)、
Joakim Milder(tenor sax)
【曲 目】
①Austin ②Sudovian Dance ③Spark Of Life
④Do rycerzy, do szlachty, do mieszczan ⑤Message In A Bottle
⑥Sleep Safe And Warm ⑦Three Reflections ⑧Still ⑨IActual Proof ⑩Largo
⑪Spark Of Life (var.)
皆様、お久しぶりです。
本来ならこの原稿は1月に出したかったのですが、忙しさにまぎれ、少し遅くなってしまいました。なぜ1月かといえば、今回ご紹介する作品は、底冷えする冬の寒さが似合うからなのです。
冒頭の曲の音が鳴った瞬間、一面の静かな雪景色が目に浮かびます。どこまでも純白で柔らかな響き。澄み切った空気。溢れ出そうになる想いを内に秘め、ゆったりとおおらかに歌う、そのメロディーの美しさ。まさにこれは、私がずっと会いたかった音楽です。
彼らは、ポーランド出身のシンプル・アコースティック・トリオ。名前からも美しい音楽が聞こえてきそうです。わずか十代の頃、ポーランドジャズの重鎮、トマス・スタンコに見初められ、既に20年近いキャリアを積んだ若き「ベテラン」たちです。その間メンバーチェンジも一切ありません。ポーランドのレーベルから出した作品が日本の熱心なファンにその名が知られるようになり、近年ヨーロッパジャズの名門ECMに移籍してからは、レーベルの命である徹底した耽美的な音響が、さらに彼らの魅力を高め、より進化を遂げています。
冒頭の曲は、数年前に若くして亡くなったピアニスト、オースティン・ペラルタに捧げた曲で、個人的に彼らの現時点でのベストだと思っています。これを聴いてダメだったら、ヨーロッパジャズを聴くのは諦めたほうがいい、と言っても過言でないほどの名曲・名演です。本作品には、数曲でテナーサックスが入り正直不安でしたが、聴いてみるとそれは吹き飛びました。
むしろ、適度にほの暗くもムーディーな空気を加え、そこに豊かに彩りを添える彼らの演奏が堪能できます。
お楽しみは選曲にもあります。ECM一作目“TRIO”(下部左の写真)では、ビョークの曲を深遠なバラードに仕上げ、二作目“January”(下部真ん中の写真)では、なんとプリンスの曲をミディアムテンポの味わい深いチャーミングな演奏で聴かせてくれたり。原曲を知っているとその大胆なアレンジに驚きますが、曲の本質をしっかり掴んでいるので、あまり違和感を感じないことに二度驚かされます。今回もポリス=スティングの“Message In A Bottle”をもってきました。この曲の魅力である繰り返しの美学が彼ら流に生かされています。途中に激しく盛り上がり、ソロの応酬になるところなど鳥肌ものです。
また、ポーランド映画「ローズマリーの赤ちゃん」に流れるクストフ・コメダの名曲「ローズマリーの子守唄」をテナー入りで演奏しています。若い時に録音したトリオでの演奏も良かったですが、ここではさらにほのかに温かみを感じる演奏で、甲乙つけがたいです。
さらにジャズファンにとって驚きなのは、「アクチュアル・プルーフ」。そう、ハービー・ハンコック作曲のエレキファンクで有名な、あれです。これがまた、彼らならではの自由自在、変幻自在な三位一体の演奏を聴かせ、独特の躍動感を獲得しています。かなり自由にやっているようで、一糸乱れぬ演奏であるのが驚異的です。
ともかく、一度は聴いてもらいたい作品です。この前に出た、ヤコブ・ヤングの“Forever Young”(下部右の写真)にもこのトリオが丸ごと参加しています。こちらはややイージーリスニング寄りですが、疲れた時には心地よいです。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!シンプル・アコースティック・トリオ