残暑を楽しむ〜ラテン系しあわせDUO
Stefano Bollani & Hamilton De Holanda「O Que Sera」(2012)
まだまだ暑いですね。猛暑の続くこの時期に、その暑さも忘れてしまうような、とっても楽しい作品がやってきました!イタリアのピアニスト、ステファノ・ボラーニと、バンドリンの名手、アミルトン・ヂ・オランダのデュオです。
バンドリンはブラジルのショーロという音楽に使われるスペイン・ポルトガル起源の楽器で、マンドリンの裏側を平らにした形をしています。2本ずつ4セットの弦が貼ってあり、2本の弦が微妙にずれて独特の音色を出します。マンドリンに似た響きですが、より機敏で小回りがきく感じです。オランドはこのバンドリンの即興の名手で、私は以前、彼のハーモニカが入ったブラジルの香り高い作品を愛聴していました(もっと聴こう!左の写真)。彼は思わず笑ってしまうほどの凄まじいテクニック、多彩な音色と幅広いダイナミックス、可憐で親しみやすいメロディーが魅力です。よくあんな小さな楽器からこんなに豊かな響きが生まれるなあと、感心してしまいます。
対するピアニストも超絶テクニックでは向かうところ敵なしのイタリアの達人、ステファノ・ボラーニ。ジャズはもちろん、クラシックからアヴァンギャルドまで何でも来いで、しかもそれらが同居しても全く違和感がありません。近年は同じラテン系ピアニストのチック・コリアとのピアノ2台DUOで話題を呼びました(もっと聴こう!写真真ん中)。「まるで4本の手を持った人間の演奏だ!」と絶賛されたテレパシー並みのレスポンスと自由で創造的な演奏は圧巻です。また、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しすぎるビッグバンド作品を出したり(もっと聴こう!左の写真)、さらにはなかなか味わいのある歌まで歌う多才ぶり。
そんな両者が真正面からぶつかり合ったライブ盤が本作品です。ブラジルやアルゼンチンなどラテンの名曲を中心とした実に楽しく色彩感に富んだ作品。
しっとりとした詩情に満ちた演奏から、超絶テクニックを遺憾なく発揮した自由奔放な演奏まで存分に堪能できます。
冒頭の曲のなんという美しさ。まるで長い夏の一日の終わりを惜しむ夕焼けのよう。しみじみと心に染み入ります。鮮烈にほとばしる両者の丁々発止の演奏が凄まじい2曲目、スパニッシュギターのようなバンドリンから始まり、快速テンポに乗って胸が熱くなるようないいメロディーが続出する4曲目。
ほっと一息つく、カルロス・ジョビン作曲「ルイザ」の可憐なピアノの響き。この繊細で優しい音色のピアノは本当に素晴らしい。それに寄り添うバンドリンの囁くような歌も切なくて素敵です。続くタイトル曲も、流麗で実にいいメロディー。感極まったようなボラー二の唸り声に心打たれます。そして、7曲目の極めつけに美しいメロディーの“ROSA”にはまたしても降参です。トレモロを利かせたバンドリンの柔らかな音色に、柔らかく語りかけそっと包み込むピアノの音色の響き合い。「至福」とはこのことを言うのでしょう。
続くバーデン・パウエル&ヴィニシウス・ヂ・モライスの名曲は、両者の火花散るようなやり取りの合間に、あの有名なメロディーが朗々と響き渡るのが快感です。現代アルゼンチンタンゴのピアソラの曲「オブリビオン」は、ほのかに漂う哀愁に包まれた陰影豊かな演奏が味わい深いです。最後は空に舞い上がり乱舞するような、めくるめく演奏。古き良き時代のパーティーを一緒に盛り上がって楽しんでいる気分。もう、最高です!!
これ以上言葉はいりません。是非ともこのDUOを聴いて元気になりましょう!
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!ボラーニ&オランダ