【まちれぽ新座】/Monthly JAZZ Selection Vol.20 ヘイデン&ルバルカバ Charlie Haden & Gonzalo Rubalcaba


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祝20号! 圧倒的な静寂の中から立ち上がる“平和への祈り”
Charlie Haden & Gonzalo Rubalcaba「TOKYO ADAGIO」(2015)

Charlie Haden & Gonzalo Rubalcaba / TOKYO ADAGIO(2015)
【 プレイヤー】
Charlie Haden(b)、Gonzalo Rubalcaba(p)
【曲 目】
①En La Orilla Del Mundo ②My Love And I ③When Will The Blues Leave
④Sandino ⑤Salamente Una Vez ⑥Transparence

 このジャケット、素敵だと思いませんか?遠目に見ると、まるで緑色のカクテルが入った華やかなグラスのようで、よく見ると巨大なベイブリッチの真下をまさに屋形船が通ろうという粋な構図です。タイトルもいかにも。そして、音楽もそのパッケージに劣らぬ、美しい曲ばかり。出だしをちょっと聞いただけで、ゆっくり静かに夜の帳が落ちていくような、夜の闇に溶けていくような心地よさがあります。

 これは、昨年7月にこの世を去った私の敬愛するジャズマン、チャーリー・ヘイデンと、キューバのピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバが、2005年の冬に来日した際に残した未発表ライブ音源です。実は私も幸運にもこの公演を聴いていました。(一週間の公演だったので、同じ日かどうかはもはや分かりません。)しかし、記憶に残っている印象とこの作品は、かなり異なります。

 実際の演奏は、「静寂に襲われるような」と言ったらよいか、もしくは、まるで宇宙空間を感じるほど気が遠くなる様な、と言えばいいのか、言葉ではとても表現できないほどの凄い演奏でした。両者が得意とする前衛表現や超絶技巧は一切封印。聞こえるか聞こえないかくらいの超弱音で、静けさに満ちた空間の中、圧倒的な緊迫感に満ちた演奏だったのです。ヘイデンはほとんど前に出ず、物語の行き先を指し示し、それを敏感に即座に汲み取って、想いを音に紡いでいくルバルカバ。果てしない静寂の中に、これ以上ないような生命力のぶつかり合いを感じました。「もう自分がどうなってもいい!」というほどの感動が体中を駆け抜けたのは、今でも忘れられません。

 このコラムの第一回目でご紹介した“Land of The Sun”が、この二人による作品で、テーマは「世界の人々の共生共存」です。当時一般には低く見られていたラテン音楽を自らの音楽の核として、一貫して世界平和を求めて演奏を続けてきたヘイデン。アメリカとキューバが国交を断絶していた時代に、初めて国境を越えたピアニスト、ルバルカバ。彼ら二人の平和への尽きることのない真摯な想いが、あのライブの尋常でない空気を生み出していたのでしょう。全6曲、二人の共演作やよく知られたスタンダード、ラテンの名曲という、メロディーの耳馴染みの良い曲ばかりですが、聴くたびに新たな感動を覚えます。

 特に深く心に響くのは、両者のオリジナル曲。4曲目ヘイデンの代表曲「サンディーノ」は、ニカラグアのサンディスタ革命に名を残す革命家に捧げています。ここではルバルカバの熱く語りかけるようなソロが一段と深い悲しみを帯び、こみ上げるような激情を歌い上げ、次第に力強く鳴らされる高音部のきらめきが心に響きます。
 最後はルバルカバがキャリアの初期から弾き続けている「透明」という意味のオリジナル曲。目には見えず、存在していないようで確かにそこにある大切なものを表しているのでしょうか。慈しむようにメロディを奏で、ヘイデンのベースの柔らかな響きと豊かに呼応し、やが雄弁に語りかけ躍動し、そして再び静寂に溶けていきます。

 この静寂の源にあるのは、やはり「祈り」なのだと思います。その一つは、最近、アメリカとキューバの国交回復という形として実現しています。こうした平和への祈りは、これからも多くの人々に受け継がれていくに違いありません。

(文:S. Nakamori)

もっと聴いてみよう!ヘイデン&ルバルカバ

Charlie Haden
with Gonzalo Rubalcaba
The Montreal Tapes(1997)

89年トリオによるジャズフェスでの共演。
こちらは超絶技巧の嵐!

Charlie Haden
Charlie Haden & Jim Hall
(2014)

ヘイデンと知性派ギタリストとの未発表音源。
溌剌とした切れ味鋭い演奏。

Gonzalo Rubalcaba
Live At 2007 Monterey Jazz Festival
(2009

ルバルカバの他、現代を代表する
ジャズマン達の熱気に満ちたライブ。

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