【まちれぽ新座】/Monthly JAZZ Selection Vol.18 マティアス・エイク Mathias Eick


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北国の春〜北欧の若手トランペットを味わう
Mathias Eick「Mid West」(2015)

Mathias Eick/ Mid West(2015)
【 プレイヤー】
Mathias Eick(tp)、Gjermund Larsen(vln)、Jon Balke(p)、Mats Eiletsen(b)、
Helge Norbakken(ds)
【曲 目】
①Midwest ②Hem ③March ④At Sea ⑤Dokota ⑥Lost ⑦Fargo ⑧November

 最近は、暖かくなったかと思えば、急に寒くなったりと不安定な天気が続きますね。せっかくの桜も寒そうにしていました。
 この時期にぜひ聴いていただきたいのが、ノルウェーの若手トランペッター、マティアス・エイクの新譜です。
 エイクはドイツのECMに移籍してから急激にその名が知られるようになったジャズマンです。1979年生まれ。ソロデビュー作“The Door”(左)は、ドラマティックな曲展開と、ここぞというところで延々と伸ばし続ける熱いロングトーンに惹かれました。まだ荒削りで青っぽさもあるのですが、そこが逆に魅力でもあります。テクニックだけではなく、心で勝負している感じがとても好きです。

 本作品は、彼がアメリカ&カナダ・ツアーで訪れた、アメリカ中西部のダコタ周辺の印象からインスピレーションを得て生まれたそうです。ダコタは19世紀から20世紀初頭にかけてノルウェーからの移民が多く住み着いた場所であり、現在の風土や人々の印象が彼の故郷に似ていて、懐かしさを感じたそうです。メンバーは全て実力派のノルウェー人で占めています。ベースのマッツ・アイレットセンは太く深みのある素朴な音色が特徴のベーシスト。哀愁のメロディーをもつ曲の数々も親しみやすいです。ヨン・バルケは最近、民族打楽器とクラブ的要素をミックスした作品でも注目されたマルチ鍵盤奏者。ECMの常連でもあります。ここでは、ピアノ一本に絞り、間合いをたっぷりとった、実に美しい旋律を聴かせてくれています。

 そして、最大の魅力は、トラッド系のフィドル(バイオリン)奏者が入っていることです。トランペットとフィドルの交じり合う響きが素晴らしく、天上の音楽といっても言い過ぎではないです。一曲目から、一気に引き込まれます。

ほの暗くさざ波のように繰り返されるピアノにのって、トランペットとフィドルが共に美しいメロディーを奏で、豊かに響き合い、自然に彩りを添えていく様がゾクゾクするほど美しいです。ふっと前に出るベースソロもさりげなく巧みで、重層的な響きを持ったフィドルの奥行のあるソロも深遠なる世界を導いています。もうこれだけで、幸せな気分に満たされます。本作でのエイックは、肩の力が抜けたというか、かなり穏やかな印象です。曲のダイナミックさよりも、その場の響きやメロディーの美しさを大事にして、メンバー全員が伸び伸びと演奏しつつも、しっかりと心を合わせている様子が伝わってきます。全てオリジナルで、全ていい曲揃いです。 
 6曲目も、空を舞うように朗々とトランペットとフィドルが交互に奏でるメロディーがそれだけで美しいのに、バルケのいつになく感傷的なピアノソロが心を揺さぶってきます。
 正味40分なので、あっという間に終わります。でも、少し足りないくらいがちょうどいいのです。心地よい余韻を残してくれます。

 ほかに聴くべき作品としては、前回もご紹介したJacob Youngの作品で、“Evening Falls”(中央)です。アコースティックギターに寄り添うトランペットが実に美しい。アイレットセンも参加。
 おまけでもう一枚ご紹介しましょう。北国系トランペットつながりで、ポーランドのRobert Majewski“My One And Only Love”(右)という、ジャズバラード曲集です。なんとバックはボボ・ステンソン、パレ・ダニエルソン、ジョーイ・バロンのピアノトリオという豪華版!!ひたすら美しい響きにただただ浸っていただきたいです。

彼らの演奏に北国の春の喜びを感じとってみてはいかがでしょうか。

(文:S. Nakamori)

もっと聴いてみよう!北国のトランンペッター

Mathias Eick
The Door
(2008)

ドラマティックな局展開と漢気ロングトーン!

Jacob Young
Evening Falls
(2004)

ギターとトランペットの美しいハーモニー

Robert Majewski
My One And Only Love
(2012
● Robert Majewski
正統派ジャズバラードアルバム。沁みます。

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