冬の夜、心静かに聴きたいソロピアノ特集
Eric Reed「Reflections of a Grateful Heart」(2013)
あっという間に今年も終わりそうです。
皆様にとって今年はどんな一年だったでしょうか?
今回は、夜中に様々な思いを巡らしながら聴くのにおすすめのソロピアノ作品を、比較的新しいものから選んでみました。
まず、ちょうどのタイミングで届いたエリック・リードの最新ソロピアノ作品“Reflections of a grateful heart”です(タイトル写真)。最近は黒っぽさが際立ち豪快な演奏が目立ちますが、実は繊細な味わいも持つピアニストなのです。その魅力を存分に味わうことができます。エリックは元々教会でゴスペルを弾いており、当時から慣れ親しんだ曲に加え、後半はオリジナル作品を収録しています。
澄んだ空気の中、ゆっくりと呼吸をするように紡がれていく美しい旋律は、慈しみの心に溢れ、あたたかく包み込むような響きが心に染み渡ります。深い悲しみや痛みをも胸の奥底に抱きつつ、それをあたたかな心で、乗り越えようとする真の強さを感じさせます。ふと立ち止まり思いを噛み締めるような間や、教会を思わせる神聖なる空気。
影も時折にじむ前半と比べ、後半の自作曲はまばゆい光に包まれた軽やかで心地良い演奏。特に再演となる7曲目“New Morning”は、ゆったりとしたワルツ調で、静かに輝く光のベールがそよ風に静かに舞うような、実に美しい曲です。ホーリーで安らぎを感じさせる演奏の数々は、クリスマスが近い今の季節に合うと思います。
次に紹介するのは、リードより一回り若い世代のマーク・キャリーが、アビー・リンカーンに捧げたアルバム“For The Love Of Abbey”(下の左の写真)です。アビーの歌の伴奏から彼のキャリアは始まっています。まずはこのジャケットをご覧いただきたい。まっすぐに澄んだ瞳とこの真摯な表情…よく見ると目の奥にアビーの影が見えます。
演奏は力強く、時に地鳴りのするような左手が印象的です。アクが強く、前衛と強いメッセージ性を持った曲の数々を、荒削りながらも豪快な演奏と、美しく寄り添って歌うような旋律が彩っています。
続いては同じクラブ世代のアーロン・パークスの初ECM作品“Arborescence”(下段中央の写真)。ECMというのはドイツのレーベルで、ジャズだけではなく、クラシック・現代音楽でも有名です。そのコンセプトは一貫して「静寂の次に美しい音」…通常思い描くジャズのイメージとは違い、静かで温度の低い、まさに冬のヨーロッパを思わせる作品群が並びます。
この作品も、静寂の中から音が生まれ、漂い、やがて消えていく、そんな美しい音の漂流を楽しむことができます。同じような音を繰り返す現代音楽の一種、ミニマル音楽の要素もさりげなく取り込んでおり、瞑想するように漂い、子守唄のようなまどろみも感じられます。聴く人を選びますが、好きな人にはたまらないでしょう。
ラストは今年突然59歳の若さで惜しくも亡くなった、伝統的なスタイルで人気を博したマリュグリュー・ミラーのソロライブ作品です。うって変わって、躍動的でスインギーな、「これぞジャズ!」という快作です。録音と同じ時期に生で聴いたソロライブでは、雪崩落ちるようなグリッサンド、破壊的な低音も効果的に響かせ、実に生き生きとした創造的な演奏に胸が踊りました。残念ながらここにはその時の興奮が100%録音されているとは言い難いのですが、それでもみずみずしさと成熟を感じさせる彼のプレイの真髄を楽しむことができます。
タイプの全く違う4作品ですが、ジャズのもつ幅の広さも楽しみつつ、ピアノの音色に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
(文:S. Nakamori)
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