夏の名残りを惜しみ秋に浸る〜あたたかな心と熱い歌
Jaleel Shaw「The Soundtruck of Things to Come」(2013)
急に涼しくなりましたね。
でも、まだ日中は暑くて夏の名残を感じます。
今回は最近私が愛聴しているアルト奏者をご紹介したいと思います。ジャリール・ショウは黒人で熱血的な演奏が人気の若手アルト奏者です。バンカのお客さんの中にはピアニストの熊谷ヤスマサ君をご存知の方もいると思いますが、ショウは彼とバークリー音楽院で同期です。ショウは比較的オーソドックスな演奏が多く、軽めで浮遊するような演奏が流行しているNYでは、かえって異色な存在です。その伝統も感じさせる熱いプレイがベテランドラマーのロイ・ヘインズの目にとまり、現在同バンドで活躍しています。
一方で他の現代ブラックミュージックとの融合を図るピアニスト、ロバート・グラスパーとも親交が深く、クラブ的なリズムを伴った演奏も得意とします。ヒップホップグループのザ・ルーツやソウル系のビラルなどとの共演もあり、ジャンルを超えて活躍。ショウのセカンドアルバム「Optimism」(2008)はロバート・グラスパーも参加しエレクトリックも導入しており、まさにクラブ路線の演奏を繰り広げています。
本作品は一転して、アコースティック楽器による編成で、本来の持ち味であるストレートアヘッドな演奏が中心。伝統的な色合いも強いため聴きやすいですが、随所に現代の黒人音楽を消化したうえでの新鮮な響きが現れ、耳を惹きつけられます。アルトサックス+ピアノトリオの演奏で、このメンバーがまた素晴らしいです。特にドラムのジョナサン・ブレイクは、豪快かつ手数の多い派手なドラミングがバンドを煽り立て、バンドの水準を一段上に引き上げるほどの実力を誇り、新旧のジャズマンから引っ張りダコの存在です。クラブ的なキレのいいリズムから、複雑な変拍子まで自由自在。本作品でも、まさにバンドの要となっています。
ピアノのローレンス・フィールドは聴くのは初めてですが、これまた個性豊かな奏者です。やはりバークリー大出身で、現在は渡辺貞夫とも共演しているようです。広がりと奥行を感じさせる左手の豊かな響きと、内省的な響きから一気に駆け上がるダイナミックスの広さが魅力です。
主役のショウも、もちろん最高です。ジャケットでおもちゃのサックスを吹く愛らしい子供はおそらくショウだと思われ、また、曲名にも家族や人の名前が見受けられるため、自分の大切な人達に捧げたアルバムではないかと推測します。そうしたことを感じさせるあたたかな曲調の曲もあり、やや内省的な響きの曲、得意のクラブ系の演奏まで実に多彩な曲の数々を聞かせます。これらは全てオリジナルで、作曲家としての才能もうかがえます。いつもより静かな曲が多めですが、演奏が盛り上がるにつれ爆発し、こみ上げるように朗々と歌い上げる、汗を振りまくような熱演が堪能できます。
私が最も好きなのは4曲目で、テーマがとてもいいのです。優しい響きを持ちつつ、堂々としていて輝かしいメロディーを聴くたびに幸せを感じます。朗々と奏でた後に、得意の早いパッセージによる流れるようなアドリブも素晴らしく、さらに熱を帯び爆発寸前まで昇りつめるスリルと言ったらありません。その爆発力に一役買っているのはジョナサン・ブレイクで、さらに曲の微妙な色合いの移り変わりを表現する繊細さも味わえます。軽やかに跳ね回るローレンスのピアノソロも聴き応えありです。
他にも充実した演奏が盛り沢山です。黒人的な濃厚なフィーリングに満ちていますが、意外とすっと聴けてしまう親しみやすさもあります。これからの季節は音楽を楽しむのにはぴったりです。是非とも才能豊かなショウの作品を楽しんでいただきたいと思います。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!ジャリール・ショウ