鬱陶しい梅雨も楽しくなる、進化系クラブジャズの頂点
Robert Glasper「Covered」(2015)
Robert Glasper / Covered(2015)
【 プレイヤー】
Robert Glasper (p)、Vincente Archer (b)、Diamond Reid (ds)、Helge Norbakken(ds)
【曲 目】
①Introduction ②I Don't Even Care ③Reckoner ④Barangril ⑤In Case You Forgot
⑥So Beautiful ⑦The Worst ⑧Good Morning ⑨Stella By Starlight ⑩Levels
⑪Got Over feat. Harry Belafonte ⑫I'm Dying of Thirst
皆様、暑くなってきましたね。雨の日も増えてきて梅雨本番。そんな時にゆったり聴きたい作品を今日はご紹介しましょう。
数日前に家に来たばかりの新譜で、ロバート・グラスパーの久々のピアノトリオ作品です。グラスパーはここ数年「ブラックレディオ」のタイトルで3枚ほど出していますが、ソウル、ヒップホップ、R&Bなどの歌手を招いた歌もの作品でした。彼の弾くアコースティックピアノを愛する私としては、そろそろピアノを中心にした作品が聴きたい!と思っていたので、今回待ちに待ったリリースとなりました。
アコースティックでの彼の演奏は、尊敬するハービーハンコックから連なる新主流派の流れを受け継ぎ、進化させたうえで、クラブ音楽との融合を図るという現在進行形のジャズを実現しています。
今回の作品は、タイトル通りのカバーアルバム。SSWの大御所ジョニ・ミッチェルから、オルタナティブ・ロックの雄レディオヘッド、ソウル系のビラル、ヒップホップの新鋭ケンドリック・ラマーなど、多彩なジャンルからの曲が並びます。全体的に深い藍色を感じさせる暗めの曲調が中心です。ちょっと聴いた感じは、穏やかでゆったりした感じ。ライブにも関わらずソロもあまり派手には出てきません。 クラブ的でソリッドなドラムの上を、ピアノが漂うような演奏です。純粋なジャズ好きの人には理解できない演奏かもしれません。しかし、理屈抜きに、とても美しい。さりげなく淡々と歌うようなピアノが、聴いているうちにじんわり染みてきます。バスドラの響きやベースの残響がそのピアノと響き合う様が実に心地よいのです。ぼーっと聴いていると、窓の向こうに茜色に染まった夕焼けが目に入りました。その美しい風景と音楽が溶け合い、「なんて美しいんだ…」と思わず陶然となってしまいました。
聴きこむと、同じように聴えた曲から、異なるストーリーが聴こえてきます。その源流を探るために、元曲を聴いてみるのもまた楽しいものです。
全曲良いのですが、特に印象に残ったものを紹介します。
ビラルの“the Levels”は、闇の中から浮かび上がるようなピアノの音色から始まり、その哀愁を帯びた旋律がいつしか地の底から響くようなドラムに乗り、軽快に跳ね回ります。次第に温かみを増しながらおおらかに歌うピアノ。閉塞的な世界の扉が徐々に開き、その遠くに光が見えるような、そんな演奏です。原曲は打ち込みによる速めのテンポの曲なので、全く雰囲気が違いますが、その中から染み出す哀愁はやはり共通するものがありました。
一方でオリジナルも力作。「ブラックレディオ」からの再演の“I don’t even care”は印象的なテーマと瑞々しく跳ね回るピアノが素敵です。
さて、関連作品ですが、まずはブラックレディオの1作目を聴いてみてください(写真左)。黒人音楽好きはハマるはず。次に、純ジャズ系の方には、グラスパーバンドのドラマー、オーティス・ブラウン3世のリーダー作で、グラスパー全面参加の“The Thought Of You”(写真中央)がお勧めです。数曲でボーカルも参加していますが、基軸となるのは新主流派の流れを汲む熱気を孕んだ2管ハードバップです。 最後は、その作品に参加しているベン・ウィリアムス最新作“Coming Of Age”(写真右)。フュージョン寄りの緩めのクラブ系ジャズですが、ニルヴァーナの曲をたった一本のアコースティックベースでグルーヴィーなジャズにしてしまった9曲目が圧巻です!
皆さんもジメジメした季節を、現在進行形のクールなジャズで、涼しく過ごしてみてはいかがでしょうか。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!現在進行形クラブジャズ