秋の夜長、“しっとり”もいいけれど、たまには活きのいいハードバップ。
Willie Jones Ⅲ「Plays The MaxRoach Songbook」
(January 19, 2012, Live at Lincoln Center's Dizzy's Club Coca-Cola)
もうすっかり秋ですね。それにしても、最近は何だか気候がおかしいですよね。これも地球温暖化の影響なのでしょうか。
秋なので、しっとりしたのを…と考えていましたが、気が変わりました。むしろいかにもジャズらしい活きのいい作品を紹介したいと思います。
今回はマックス・ローチという偉大なるジャズドラマーに捧げた作品です。ジャズの黎明期から黄金期にかけて、バップ~ハードバップを確立した立役者の一人です。ビバップとはコード進行を中心にした初期のジャズです。言ってみれば、「コード」という高さの違うブロックを積み上げ、その凹凸を乗り越えることで躍動感を出すスタイル。後により洗練され、ハードバップという形になりました。今でも「主流派」と言われる、いかにもジャズらしいスタイルです。
「ウィ・インシスト」という作品で、当時アメリカに吹き荒れていた人種差別に真っ向から抵抗しました。70年代以降は硬派なフリージャズにも積極的に参加しています。彼の絶頂期は超天才トランペッター、クリフォード・ブラウンと結成したローチ・ブラウン・クインテットでしょう。この時代の作品でおすすめは、このバンド最期の作品となった“At Basin Street”(1956)です。これまた超天才テナー奏者、ソニー・ロリンズが参加し、白熱の演奏を聴かせてくれます。
さて、本作品のリーダーはニューオリンズ出身の中堅ドラマー、ウィリー・ジョーンズ三世で、メンバーは気心の知れた中堅どころのメンバーが中心です。
要のリズム隊は盟友エリック・リードのピアノと、新人ベーシスト、デロン・ダグラス。リードは近年やたらと音が黒っぽくなり絶好調。ここでもやや硬質で力強い打鍵でバンドを盛り上げ、音がアウトになるギリギリまで突進する凄まじいソロが魅力です。近日、ジョーンズ参加のリードのピアノトリオ作がリリース予定で、いやがおうにも期待は膨らみます。
ダグラスは粘るようなリズムと深い音色でバンドを支え、ソロはほとんどありませんが、大いに存在を印象づけています。
フロントはまず、ハードバップ一筋のトロンボーン奏者、スティーブ・デイビス。彼らとは一回り若く、近年好リーダー作を連発しているトランペッター、ジェレミー・ペルト。そして、ウィリーとは共演も多いステイシー・ディラードが参加しています。フロント陣では特にディラードの空間を埋め尽くすかのような激しいテナーサックスが印象的。
リーダーのジョーンズはこのオールスターメンバーをがっちりまとめ、力強く煽り立てます。いたずらにローチの演奏を意識しすぎることなく、伝統的なハードバップを下敷きに、現代的な感性も大いに取り込んだ彼ならではの活きのいいドラミングも聴きものです。ライブ演奏ということもあり、メンバーが一丸となって燃え盛っています。
どの演奏も素晴らしいですが、敢えて好きな演奏を挙げれば、二曲目の”Libra”です。典型的な4ビートですが、変拍子が時折混ざり合い、リズムが力強く躍動します。ディラードのテナーが宙を舞い、突進していく演奏が凄まじいです。続くペルトも負けじと健闘。最期のリードの長尺のソロは、徐々に熱が上がりスケールが壮大になっていく様が圧巻です。さらに煽り立てるウィリーとダグラスのベースも地鳴りがするかの如くの凄まじさ。
他にもジョーンズのテクニカルな長尺のソロが堪能できる大曲の4曲目や、ゆったりとした美しいメロディーと、あたたかな各人のソロに魅了される6曲目。さらに、件のローチ・ブラウン楽団での名曲では、躍動的なリズムに乗った3管による重厚なテーマ、疾走する各人のソロと華々しいチェイスが堪能できます。どの曲もハードバップの楽しさを存分に味わえる演奏ばかりです。
秋の夜長にこんな活きのいいハードバップはいかがでしょうか。近所迷惑にならないよう、音量には十分お気を付けください(笑)。
(文:S. Nakamori)
もっと聴いてみよう!ウィリー・ジョーンズ サイドマン参加作品